荻窪のブックカフェ6次元(杉並区上荻1)で4月22日、ドキュメンタリー映画「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」公開記念トークイベント「エルミタージュ美術館ナイト」が開催された。
4月29日の同作公開に先駆け、同店オーナーのナカムラクニオさんと、ロシア文学者で東京大学教授の沼野充義さんが、エルミタージュ美術館とそれを取り巻くロシアの歴史について語った。
同作は女帝エカテリーナ2世の絵画コレクションから始まった同美術館の300万点を超える至宝の数々と、ロシア革命や第二次世界大戦に翻弄(ほんろう)され、美術品を守るために戦った館長・学芸員たちの姿を映し出したもの。
沼野さんは同作について「エルミタージュ美術館は実際に行くと、とても巨大で圧倒される。この映画は短く良くまとまっていて歴史も丹念に追われている作品。ロシアの過酷な時代を経て美術品を守ってきたということがよく分かった」と話す。
本編中に印象的に登場するという、第二次世界大戦下のレニングラード包囲戦の最中に、美術品を疎開させたというエピソードについては「エルミタージュの美術品の価値は別格。学芸員の人たちはそれを一番よく分かっていて、作品を本当に愛していた。だからこそ自分の命の安全よりもまずは先に収蔵品を疎開させようと思ったはず。その後、空の額縁だけになった館内でおなかをすかせた兵士たちに美術品の説明をし、彼らの心を癒やしたという話は本当にすごいこと。ロシアの歴史ではいろいろなことが起こっているが、エルミタージュ美術館は所蔵品をきちんと残しており、どんどん増やしてきた。これをすべて支えているのは学芸員だった」とコメント。
イベントには沼野さんのファンや、ロシア文学が好きだという女性らが集まり、熱心にメモと取る人もいた。参加者からは、「ロシアマニアの方々による実のある質問や、聞き手の中村さんの知識の豊富さで、沼野さんのここでしか聞けない話を聞くことができた。映画はもちろん、ロシア文学をもっと読んでみたくなった」「沼野先生の話はロシアの歴史、芸術家、お薦め小説とてんこ盛りだった」などの感想があった。
沼野さんは「ロシアでの学芸員は資格や地位はしっかりしていて、上の人たちは研究所の研究員のような人たち。専門的知識も素晴らしく尊敬されているが、給与は安いようだ。同作を見て学芸員は本当に立派だなと改めて思った」と話した。
同作は4月29日から、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開される。