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火災で全焼した「薔薇亭」が50年の歴史に幕 「感謝の気持ちでいっぱい」

薔薇亭の嘉村千種さん、正氏さん(2021年4月1日撮影)

薔薇亭の嘉村千種さん、正氏さん(2021年4月1日撮影)

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 火災により休業していた「グルメハウス薔薇(ローズ)亭」(杉並区高円寺北3)が3月24日、閉店を発表した。

店内に貼られていた手書きメニュー

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 高円寺中通り商店街の「アフターアワーズ」「薔薇亭」が入る建物で昨年12月28日未明に発生した火災で、建物が全焼した。約50年の歴史がある老舗定食店の「薔薇亭」の店主、嘉村正氏(まさし)さん(80)、千種(ちぐさ)さん(78)夫妻は再建を目指して来たが、正氏さんの体調不良のため閉店を決断した。

 正氏さんと千種さんは30代の頃、喫茶店開業のための専門学校で知り合い、互いに志が同じだったことから、高円寺で「コーヒーショップ薔薇(ローズ)」を開業した。千種さんは「当時は女性一人で喫茶店には入りづらい時代だったので、グラスもかわいいものを用意し、工夫してやっていた。コーヒーが100円で飲める時代で切り盛りするのも大変だったけど、やっぱり安くいっぱい食べてほしい気持ちがあったので、モーニングにフルーツを付けて400円で提供したら、予備校生やサラリーマンにも人気で、行列ができることもあった」と話す。

 3年ほど営業した頃、焼失した薔薇亭の店舗でステーキハウスを経営していた店主が病気により閉店する旨を知人から聞き、店舗を引き継ぐことになった。千種さんは料理人だった父から、洋食料理のノウハウを教わり「安い、うまい、ボリューミー」をコンセプトに、定食を提供する現在の薔薇亭をオープン。名物はカキフライやポークジンジャー。「東京の子は野菜の摂取が少ないから」と正氏さんのこだわりで野菜を多めに添えた。店内には千種さんの手書きメニューや、客からの感謝のメッセージがびっしり飾られ、正氏さんの趣味である油絵や、花飾りなども飾られていたが、焼失してしまった。

 火災後、常連客が有志で再建プロジェクトを立ち上げた。解体前の店舗には、メッセージボードが置かれ、再開を願うメッセージが隙間なく書き込まれた。ツイッターでは、夫妻からのメッセージや、再建に向けたクラウドファンディングの準備の様子などを発信していたが、正氏さんの体の不調により、夫妻は断腸の思いで閉店を決意した。

 千種さんは「もう一度皆様の『いただきます』『ごちそうさま』のお声を聞きたかった。『また必ずやるよ!』と言ってきたが、断念せざるを得なくなった。期待させてしまい、裏切るのではと、日々悩み苦しんだ。プロジェクトメンバーにツイッターで閉店のメッセージを届けてもらうと、『お疲れさま、ゆっくり休んで』と、またたくさんのメッセージを頂いて、本当に元気をもらい感謝の気持ちでいっぱい」と涙ながらに語った。

 今後、正氏さんは自宅で油絵を書いてゆっくり過ごすといい、千種さんは「そろばんを習いたいと思い、教室に行ったが子どものお教室で、おばあちゃんは受け入れてもらえなかった。週末に書道教室の見学に行ってくる」と話し、趣味を充実させる予定。「5月にスマートフォンを買って息子たち(プロジェクトメンバー)に使い方を教わって、ツイッターも使えるように頑張って、高円寺のお母さんとして近況報告などを発信しながら、皆さんとこれからもつながっていきたい」とも。

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